メリバ好きの原点

大昔、バレエを習っていた。

4、5歳のときに始めて10年以上続けたものの、筋トレも柔軟も嫌いで、お世辞にも上手いとは言えない実力だったし、仮に上手くても踊る相手は身長的にいなかったし、みんなと混ざって踊っても悪目立ちするしか無かったくらい相性の悪い習い事だった。

陰険な女どもに更衣室から締め出されるなどの嫌がらせもされたが、でもあの煌びやかな衣装を身にまとい照明が輝く舞台の中にいることが楽しかった。

大先生が引退なさると宣言して、弟子の先生のバレエ教室に吸収された時に、きちんと辞めますと言えずにフェードアウトしたのが心残りなのか、未だに月一ペースでバレエのお稽古に向かうが上手くたどり着けない夢を見る。

それくらいにはバレエが好きだったのだと思う。

 

最後に踊ったのはジゼルという演目の中に出てくるウィリという超脇役だった。

何する役なのかと言うと、墓地にやってきた男を死ぬまでダンスさせて湖に突き落とす幽霊という役である。

ダンスで殺すっていうのが無茶苦茶なんだが、カードバトルで死ぬ世界線もあるからバレエにもバレエでの殺し方があるんだ。多分。

 

ジゼル(全2幕)自体のあらすじは

1幕目は、ドイツの貴族アルブレヒトが身分を偽り、小さな村の美しい村娘ジゼルと恋に落ちるが、それがバレ、更には婚約者の存在もジゼルに知られ、ジゼルがショックのあまり錯乱して死ぬ。

2幕目は森の奥深くのジゼルの墓で妖精ウィリたちと、その女王ミルタが新しいウィリであるジゼルを迎え入れる。

ミルタたちは婚前で男に裏切られて死んだ女の亡霊なので同胞のジゼルのために墓参りに来たアルブレヒトを殺しにかかるが、ジゼルがそれを阻止しようとする。やがて朝になりミルタたちは撤退していき、ジゼルも墓へ戻っていく。

残されたアルブレヒトは深い後悔を抱えて生きていく…というお話。

 

そのたった第2幕だけを踊ったのだが、それだけで思い入れのあるものになった。

ウィリの踊りの面での役割としては、ただひたすら背景と同化する…同じ姿勢を長時間保つということを求められる。これが結構しんどい。ポージングは定期的に変わるのだが、ピクリとも動かないようにしなければならない。

主人公たちが踊るための引き立て役なのだ。

 

王道の白鳥の湖や、バヤデルカはヒロインもヒーローもどっちも死ぬ。が、ジゼルはジゼルだけが死ぬ。私のメリバ好きはここから来てるんじゃないかと思う。

第1幕は、大恋愛の末錯乱して死ぬってジゼル繊細すぎるだろ…と思っていた。今は分からないこともない。そのためアルブレヒトはどう考えてもいい加減すぎる男なので嫌いなのだが、色んな人の演技を見ると結構実直な印象を受ける。意外。まだその領域はわからない。全体としては村娘調の衣装が中心なので華やかではない。錯乱のシーンは見もの。

 

しかしその後、第2幕ではスモークが炊かれた暗い舞台に月明かりのようなほのかに白く照らされる照明が、暗く深い森という神秘的な雰囲気を演出している。そこに儚く優雅に登場し、重力を感じない軽やかな踊りを魅せる純白の衣装に身を包んだウィリの女王ミルタ。ただそこに静かにあるだけで、厳かで女王然とした佇まい。1幕の「生」があるからこそより引き立つ「死」の神秘。美しすぎる。

しかしウィリの女王なので、おそらく気が遠くなるほど大昔に男に裏切られて地獄を見た女だ、面構えが違う。

踊りも、雪のように柔らかく、しかし触れると冷たく純粋に踊るジゼルと対照的に、氷のように堅く鋭く隙のない踊りをするミルタが好きだ。

好きすぎるが故に、多分アルブレヒトを死守したあとのジゼルがミルタの氷を溶かそうとする百合展開後日譚ワンチャンあるだろとか、ジゼルでなくても過去に自分の傷を癒してくれたことからミルタに想いを寄せているウィリとか絶対いるだろって考えるくらいにはミルタのこと考察してしまう。多分転生したらウィリになってる件だ。(というか転生しても死んでる)

 

そもそもバレエ作品に出てくる気の強い女の踊りが好きすぎるのがいけない。コンクールなどではバリエーションという1分半くらいの長さの踊りを踊るのだが、先輩方の踊りを見てきた私の好みはみんな気の強い女の踊り…そしてタンバリンや小道具を使う難易度高めの踊り…(キトリ、エスメラルダ、黒鳥など)

 

話を戻して、バレエ作品は全幕見るとなるとそこそこに長いものが多いのだが(眠れる森の美女とかは3幕ある)ジゼル自体は1時40分という舞台にしてはコンパクトなものなので見やすい。

男性の衣装とかはちょっと見慣れるのに時間かかるかもしれないけど跳躍力とかつま先見てたら多分気にならなくなると思う。

推しは2幕からなので2幕だけ見てください。

ちなみにバレエは、いい舞台だと音楽団とかが舞台の前で生で演奏してくれる。踊り手の動きに合わせて音楽が出来上がっていく臨場感もなかなか高いチケット代払って見る価値はある。

めちゃくちゃバレエ見に行きたくなってきたしジゼルの円盤欲しくなってきた。バレエ団ごとに欲しいし、演出毎に違うのが欲しい。

終わる。